ナレッジマネジメントとは?目的と手法、導入メリットを解説

ビジネスシーンにおいて、ナレッジマネジメントという言葉がよく聞かれるようになりました。しかし、ナレッジマネジメントがどのような理論に基づいたものなのか、またどのような目的やメリットを持つのかなど、詳細を理解できていないという方は多いでしょう。
そこで今回は、ナレッジマネジメントについて、基本概念からルーツ、目的、メリット、導入のポイントまで詳しくご説明します。

目次

ナレッジマネジメントとは

まずはナレッジマネジメントとはどのような事を指すのか押さえておきましょう。

ナレッジマネジメントとは、企業全体の生産性・優位性を高めるために、個人および組織が持つ企業にとって有益な知識や経験、ノウハウ等を企業内で共有・活用するという経営手法のこと。

そもそもナレッジとは、「knowledge」つまり「知識」を指す言葉です。そして、これを元に、近年のビジネスシーンでは、「個人や組織が持つ知識や経験、ノウハウといった企業にとって有益な知的情報」のことをナレッジと呼んでいます。また、マネジメントは「管理」を指す言葉です。
つまり、「有益な知的情報の管理」という意味で、ナレッジマネジメントという言葉が使用されています。

ナレッジマネジメントという手法は、欧米において、「情報システムによる知識管理」として広がりを見せてきました。しかし、個人の持つ「言葉や数値では表しにくい知識」に重きを置く現代のナレッジマネジメントは日本を発端とするものであり、1990年代前半に経済学者である野中郁次郎により発表された理論モデルから始まったと言われています。そのモデルは「SECI(セキ)モデル」と呼ばれるものですが、これについては後の章でご説明しましょう。

社員が長くひとつの企業に勤めることが普通であった時代には、特別なツールがなくても、ナレッジの共有は比較的簡単に行えました。しかし、時代が進むにつれ、社員の流動性は加速しています。ナレッジをデータとして蓄積する必要性が生じ、デジタル化の影響も受け、システムを用いたナレッジマネジメントが注目されるようになりました。

こうして現在の企業の多くはナレッジマネジメントに力を入れるようになったのです。

ナレッジマネジメントの目的と手法

多くの企業に浸透したナレッジマネジメントですが、ここではその目的と手法についてご説明しましょう。

ナレッジマネジメントの目的

ナレッジマネジメントの目的は、「暗黙知」を「形式知」に変え、企業内での共有を可能にすることです。

暗黙知とは
個人が持つ知識や経験、ノウハウ、勘など、言葉や数値では表しにくい知識のこと。
形式知とは
文章や数字で表すことのできる知識のこと。明示的知識と呼ばれることも。

「暗黙知」を「形式知」に変換し共有できれば、そのデータを基に、次章で挙げるような活用手法を取ることができます。

ナレッジマネジメントの手法

ナレッジマネジメントの活用手法としては、主に以下の4種が挙げられます。

経営戦略の分析と策定
ナレッジマネジメントの活用により、組織内の多様な知識を多角的に分析することが可能になり、その結果は経営戦略に役立てられます。
ベストプラクティス(効率的な方法)の共有
ナレッジマネジメントの活用により、有能な社員の思考や行動、ノウハウをデータベース化することができ、他の社員が効率的に成果を出せるようになります。
顧客知識の共有
ナレッジマネジメントの活用により、顧客の要望やクレーム、対応方法などが企業内で共有できれば、どの部署においても共通の対応ができ、結果として顧客満足度を上げることが可能です。
専門知識の提供
ナレッジマネジメントの活用により、個人が得た専門知識をデータとして蓄積できれば、企業内でその知識を必要な人が必要な時に、効率的に利用することができます。

つまり、ナレッジマネジメントを活用すれば、多角的な経営戦略の策定や社員の成果アップ、顧客満足度アップ、専門知識の効率的な共有など、企業にとって価値ある結果を期待できるのです。

SECIモデルとは?

SECI(セキ)モデルとは、ナレッジマネジメントのフレームワークとなる理論モデルであり、前述の通り、経済学者である野中郁次郎によって発表されたものです。
このSECIモデルは、連続していく知識創造のプロセスを表したもので、以下の4つの要素から成り立っています。

Socialization(共同化)
個人から個人へと暗黙知を伝え、同じ経験を行い、暗黙知の理解を深める。
Externalization(表出化)
暗黙知を言語や数字で表し、形式知に変えていく。
Combination(連結化)
型式知と型式知を組み合わせ、知識体系を作っていく。これにより、個人の持っていた暗黙知は企業の知的財産になる。
Internalizaion(内面化)
上記の段階を経て作られた体系的型式知を受け、個人がそれを自身の暗黙知へ変換していく。

これらの要素が繰り返されることにより、暗黙知は形式知に変換されて知的財産となり、そこからさらに暗黙知、型式知が生まれていきます。このように、段階を経て知識創造が連続していくということが、SECIモデルの主な内容です。
この理論はナレッジマネジメントの基礎となっており、知識を共有することによるさらなる知識の高まりを示しています。

ナレッジマネジメントのメリット・デメリット

ナレッジマネジメントのメリット

ナレッジマネジメントを導入する主なメリットとしては、「業務効率化・生産性向上」「人材育成の効率化」「顧客マネジメント向上」が挙げられます。これらのメリットは、企業価値や企業競争力の向上といった企業利益に繋がります。

1. 業務効率化・生産性向上

ナレッジマネジメントを導入すれば、あらゆる知識の共有が叶うため、業務に社員ごとのばらつきが生じにくく、業務の質を保持できます。また、不明点を自身で解決でき、不要な業務の洗い出しも行いやすくなるため、業務の効率化および生産性の向上を図れます。

2. 人材育成の効率化

ナレッジマネジメントを導入していれば、新人や初めての業務を行う社員に対し、経験者が一から業務を教える必要がありません。そのため、効率的な人材育成ができ、人材育成のためのコストカットも可能になります。

3. 顧客マネジメントの向上

ナレッジマネジメントでは顧客情報の共有も可能になるため、最新の顧客ニーズを各部署が把握し、迅速に業務に反映させることができます。

ナレッジマネジメントのデメリット

ナレッジマネジメントには、以下のようなデメリットも存在します。

1. システム導入に費用と時間がかかる

ナレッジマネジメントのためにシステムを導入するには、一定の費用が必要です。
また、ナレッジマネジメント導入に際しては、各社員の持つ知識を正確に洗い出し、体系化しなければなりません。さらにシステムの改善を繰り返しながら実用へと近づけていくため、かなりの時間もかかります。
導入しようと思ってすぐに導入できるものではないという点は、ナレッジマネジメントのデメリットだと言えるでしょう。

2. 社員のシステム利用定着が難しい

ナレッジマネジメントを導入しても、社員によるシステムの利用が定着するかどうかは別問題です。システム利用が定着しなければ、企業としてうまくナレッジマネジメントの活用はできません。
システム利用が定着するか否かは、システムの利用しやすさや社員の層にもよるため、システム開発段階で社員の意見を取り入れることが大切でしょう。

ナレッジマネジメントの導入事例と導入のポイント

ナレッジマネジメント導入事例

建築設計会社A社は、官民一体による大型施設な建設増加に伴う多数の受注を受け、規模を拡大しました。事務所を各地に増やし、従業員も増やしたものの、急速な事業拡大により建築士の育成は従来通りでは間に合いません。とはいえ、ベテランの建築士は限られており、ノウハウが乏しい若手建築士の手を借りざるを得ない状況です。
そこで導入したのが、ナレッジマネジメントです。担当組織を設置し、以下のような方法を用い、時間をかけてシステムを構築しました。

  • 経験豊富な建築技術士による技術チーム設置、社員の技術力向上をサポート【共同化】
  • IT苦手なベテラン建築士とIT得意な若手建築士を組ませ、暗黙知を継承、形式知に【共同化】【表出化】
  • 社内情報共有のためのイントラネット立ち上げ【共同化】【表出化】
  • 社員インタビューによる標準データベース構築【連結化】
  • 社員情報を建築方法や建物、役割などで検索可能に【連結化】

これらの方法により、社員によるナレッジの【内面化】は進んでいきます。
その後A社では、ナレッジマネジメント導入により、若手建築士の育成が正確で効率的になり、全体の能力が向上しました。さらには、別の事務所同士での共同プログラムが実現したり、従業員同士の結びつきの強化が叶ったりと、副産物的な効果も得られました。
結果、同社は事業拡大に成功し、技術とデザインの両方で高い評価を得て、現在も建築設計の先端を行く企業として活躍しています。

ナレッジマネジメント導入ポイント

ナレッジマネジメントの導入においては、以下のポイントに気をつける必要があります。

ツールを活用する

ナレッジマネジメントの導入にあたっては、ツールをうまく活用しましょう。例えば、データマイニングツール、グループウェア、FAQシステム、ナレッジ共有ツールなどです。このような既存ツールを使用することで、より効率的なナレッジマネジメント導入が可能になります。

まずはスモールスタートで

ナレッジマネジメントは規模が大きくなるほど運用が難しくなります。そのため、システム導入にあたっては、まずは一部の事業において小規模にスタートさせ、改善を行いながら拡大していくことでトラブルリスクを軽減できます。

システム導入には時間がかかる

前述の通り、ナレッジマネジメント導入には膨大な知識の洗い出しと体系化が必要であり、ある程度の時間を要します。半端にナレッジマネジメントを導入して失敗しないためにも、ある程度の時間を設け、人材とコストを割く必要はあるでしょう。

まとめ

ナレッジマネジメントは、現代企業が効率的にその価値や競争力を高めるにあたって、有効です。ただし、ナレッジマネジメントを一から導入し、成功させるのは、決して簡単なことではありません。業種やそれぞれの会社によって、適切な方法も異なるでしょう。

ナレッジマネジメント導入にあたっては、急ぎすぎず、模索と改善を繰り返していくことが重要です。近年ではナレッジシェアツールも多様化しているので、それらも効率的に利用していくと良いでしょう。

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